髪の毛の雑学
2017.06.28更新
未来の最先端医療では髪が再生できるかも!毛髪再生医療の臨床試験が開始
「再生医療」という医療分野があります。
これは「身体の機能が損なわれた部分に細胞を移植することで失った機能を再生させよう」という治療のことです。少し前には「iPS細胞」なんてものが話題になりましたが、本質的にはあれと同じです。
この再生医療はもっぱら臓器の治療分野で用いられてるわけですが、最近になって「資生堂」と「京セラ」というふたつの会社が「髪の毛でも再生医療をやっていこう」と実験を行なっています。そこで研究されているのが「毛髪再生医療」です。
毛髪再生医療が成功すれば、今までの発毛剤治療のようにただ薄毛を食い止めるだけの治療ではなく、髪の毛が再生して「正真正銘、薄毛が治る」ということになります。
今回は薄毛治療界隈で注目されている毛髪再生医療がどのようなものなのか、わかりやすく解説していきます。
目次
資生堂と京セラの毛髪再生医療は微妙に違う
毛髪再生医療は最先端の研究ではありますが、その方法論は以下の3点で説明できる、シンプルでわかりやすいものとなっています。
- 後頭部から毛根(10本ほど)を含む皮膚片を採取
- 皮膚片から採取した細胞を3ヶ月かけて培養し、増やす
- 増やした細胞を脱毛部に注入。その細胞で発毛を狙う
後頭部の髪の毛は「AGA」の影響を受けないため、毛髪再生後に再び薄毛にならないように後頭部から採取します。
自毛植毛の場合は取り出した毛根をそのまま移植するわけですが、毛髪再生医療の場合はまずこの細胞を増やしにかかります。 培養して細胞を増やすことで、後頭部から採取する髪の毛の量を極力減らそうという考えなわけですね。
細胞が100万個ほどに増えたところで細胞を脱毛部に注入します。これには注射器を使うことになると思われます。
この基本的な構造は資生堂、京セラどちらの毛髪再生医療でも変わりません。
しかし、資生堂と京セラの毛髪再生医療には大きく異なる点があります。それは培養する細胞の違いです。
資生堂は毛球部毛根鞘細胞を培養する
「毛球部毛根鞘細胞」という言葉に聞き覚えのある人はまずいないでしょう。
毛球部毛根鞘細胞は、上のイラストでいうと毛根を包み込んでいるピンクの物体のことです。この部分には毛を作る能力があることがわかっています。
ですから、この細胞を培養して増やすことで髪の毛も増やすことができるだろうということです。
京セラは毛乳頭細胞とバルジ領域上皮細胞を培養する
一方で京セラが培養するのは毛球部毛根鞘細胞ではなく「毛乳頭細胞」と「バルジ領域上皮細胞」となっています。
毛球部毛根鞘細胞は「毛を作る能力を持った細胞」でしたが、毛乳頭細胞は「毛を作る能力を持った細胞に毛を作るように指令を出す細胞」です。
つまり京セラは毛を作るための従業員ではなく、司令官を増やそうというスタンスで毛髪再生医療を行なっているということですね。
もう片方のバルジ領域上皮細胞は上の画像でいうと真皮層の髪の毛を包んでいる部分あたりでして、これには「毛乳頭細胞を作る効果」があります。
毛乳頭細胞一点集中でやっていこうという京セラの思惑が見て取れますね。
実際にマウスに培養した細胞を移植したところ、1立方センチメートルあたりに124本の毛が発毛したようですので効果は期待できると言えそうです。
ちなみに人間の髪の毛は1立方センチメートルあたりに200本から300本生えています。詳しくは「1日に抜ける毛は68本!人間の髪の毛本数から1日の抜け毛を数学的に解明!」で解説していますので興味のある方はこちらを参考にしてください。
京セラは細胞そのものではなく細胞の原基を移植するため外科的な処置を行う可能性あり
もうひとつ京セラが資生堂と異なる点に、細胞ではなく「原基」を移植するという点が挙げられます。
原基とは何かと言うと、簡単に言えば細胞がある程度組み合わさってできた種のようなものです。
細胞を移植するのと原基を移植するのではどう違うのかをわかりやすく例えると、細胞移植が材料だけ渡して「全部自分で頑張れ」と言っているのに対して原基の移植はプラモデルを渡して「これを組み立てろ」と言っているような感覚でしょうか。
これによって確実に変わってくるのは移植方法です。
細胞の移植であれば注射器で注入するだけで済みますが、細胞の集合体である原基はサイズが大きすぎるため注射器での注入はほぼ不可能です。
よって、自毛植毛のパンチ開けのような、なんらかの外科的処置が必要になってくるはずです。
どちらも2020年の実用化を目指して臨床試験を実施中!
現在は資生堂、京セラともに2020年の実用化をめどに臨床試験を実施しています。
臨床試験とはマウスのような実験動物ではなく実際に人間に効果があるのかどうかを試す試験ですから、ここで効果を認められれば薄毛治療界隈が大きく変わることになりそうです。
特に京セラの実験はマウスで大きな効果を挙げていますから期待が持てます。
ただ、医学の実用化は目標よりも大きく遅れるのが一般的ですから、実際には2023年くらいになるのではないかなと踏んでいます。